先ず例として、虹がなぜ円弧を描くのかを理解しておく必
要があります (解っている人は飛ばし読み)。 仮に、図の水滴が入射光に対して一定の角度で光を跳ね返すとしましょう。 一定角度といっても、水滴の場合は単一方向だけではなく、入射光に対して一定角度をもつ矢印方向の集合=円錐状に光を跳ね返します。 (「ブロッケン現象とグリーンフラッシュ」の「虹」に水滴内の光の経路が解説されています。 氷の結晶の場合は方向が限られ、「幻日」の例では二方向に輝点が見られます。 しかし、結晶の向きがバラバラであれば「日暈」のように反射する点の集合が円弧を描きます。) |
この散乱現象は、水滴の集合である雨の中のどこでも起きています。 しかし、観察する人に届くのは図に示したルートに限られます。
このルートの集合が例に挙げた虹や、ブロッケン現象その他の気象光学現象として観察されるのです。 (平地で見る虹が半円なのは、下半分が近くの地面なので雨粒が無いためです。) 従って、どんな粒子が、どんな方向に光を跳ね返すのかがわかれば、どのような形の気象光学現象が観察されるかがわかる訳で す。逆に気象光学 現象から大気中の情報を察することができるのです。 |
粒子の大きさと 形 |
光の方向が 変わるしくみ |
(1)粒子が光の波長に比べて十分小さい場合 |
Rayleigh散乱(レイリー散
乱)が起こる レイリー散乱は、ほぼ等方的に波長の短い光を散乱します。散乱強度は波長の4乗に反比例します。 そのため散乱光は青い色に見え、空の色やタバコの紫煙はRayleigh散乱で説明されます。 通過してきた光は青色を失って赤くなります。 |
(2)粒子の大きさが光の 波長に近い場合 (ブロッケン現象が現われる場合がある) |
Mie散乱(ミー散乱)が
起こる(回折などの 波動光学) ミー散乱の後方散乱が色ごとに角度依存性のピークを幾つか持っているため、 条件がそろえば複数のリングとなってブ ロッケン現象が 見られるそうです。 簡単なモデルで角度依存性の例を図示しましたのでご覧ください。 Mie散乱を簡単に解釈すれば、粒子が光のアンテナとなって、受信した光を幾つかの方向へ再送信(散乱)すると いう見かたもできます。 粒子が波長に近い大きさなので、回折、干渉、粒子の共振(多重反射)、表面進行波などが同時に起こり、 これらを全て解析しなければ正確な散乱特性がわからない難しさがある。 Mie散乱は後方よりも、前方散乱が最も強く、側方にもわずかに散乱しますが、前方は色の角度依存性が少ない場合が多 い。 太陽や月の周りに現われる薄雲の光冠(前方散乱)は、よく雲粒子による回折として説明されていますが、 Mie散乱は回折も含めた理論ですので、これに含まれるといっても良いでしょう。 |
(2.5)2と3の境界 |
霧の粒子が大きくなるにつれ、
ブロッケン現象の輪の大きさは小さくなり見えにくくなっていきます。 それと同時に、虹が現れ始めます。半径10μm程度が小さなブロッケンと色の付かない虹が同時に現れる条件のようです。 もっと大きな水滴になるほど、虹の色が強く現れます。 ミー 散乱シミュレーションと実際の写真の比較 (偏向フィルタにより色付いているので注意) |
(3)雨粒の場合(波長に比べて十分大きい場合) |
屈折と反射が
起こる(幾何光学) 虹は、光が雨粒に入射した後、水滴内で反射して、雨粒から出てゆきますが、 光が水滴に入る時と出る時に屈折しますので、プリズムと同じように虹色に分かれます。 |
(4)氷晶の場合 |
氷晶が波長に比べて小さい場合はRayleigh散乱が起き、波長に
近い場合はMie散乱が起こります。 球でない粒子のMie散乱は、多少違ったものになるはずです。 波長に比べて十分大きな氷晶では、もはやMie散乱は起きず、屈折と反射による高層雲の彩雲や冠その他の現象が現われ る。 航空機から見ると、ブロッケン現象のほとんどが水でできた低い雲に現れるもので、氷でできた高い雲にはあまり見られない よう です。 おそらく氷晶のMie散乱ではブロッケン現象となる条件が少ないためと思われます(例えば針状、薄い板状の 結晶 は水滴と形状 が大きく異なるためなど)。 しかし稀にMie散乱を肉眼で確認できる氷晶もあると考えられます(→写真 色々)。 |
・回折現象とは ブロッケン現象は回折その他の、光が波である事に起因する、ミー散乱によって起こります。そのなかで大きな影響を与え るの が回折です。 回折は粒子の周辺を通る光と、粒子による散乱光が重なり合って干渉した結果です。 写真は、赤色レーザー光(単一波長)に対する、粒子(ホコリ)の回折像です。 何重もの同心円の中心に粒子があります。ホコリがたくさんあるので、同心円が何個も見えます。 小さな物を拡大してみると、点状の物体の影は点にならないのです。 ※実験する場合は、レーザー光や鏡面状物体からの反射光が目に入らないようにしてください。 |
下側の写真は、縦に長い 物体(左端)の影
周辺 です。 左側の影にも回折で光が回り込んでいますが、暗くて十分写っていない。
右側は影の外側ですが、よく縞模様が写っています(ホコリも多少重なって見える)。 日常生活では、太陽であろうと光源の大きさが大きく、縞模様が重なり合って見えません。 また、光の波長もたくさん含まれていて、波長によって縞の間隔が変わりますので、重なり合うとわかりにくいです。 レーザー光はこの2点について回折や干渉などを観察するのに最適です。 回折によって影がボケたり波打つので、顕微鏡などで観察できる物の大きさは、回折限界によって決まります(肉眼では見 えな いほど小さい現象)。光学顕微鏡より小さな物を見るためには、波長の短い電子線(電子顕微鏡)、回折限界を超えるためには近接させた針による走査型トンネ ル顕微鏡があります。 回折などの計算は光を波として重ねあえば良いだけですが、 積分計算になるのが面倒です。 以下に簡単な計算例を示してあります。 |
ブロッケン現象の特徴 |
Mie散乱による解釈 |
(1)見かけの大きさは半径3~4°程度 |
5μm程度の粒子であればMie後方散乱のピークは この 程度となる
そうです。 |
(2)見かけの大きさは一定でない |
粒子の寸法が散乱を支配しているため。 しかし見かけの大きさは2倍も変わらないが、粒子の寸法が比較的一定なのだろうか? 気象関係の情報も必要。 |
(3)大きな雨粒には見えず、小さな霧や雲に現れる |
雨では屈折と反射で虹が現われ、
ブロッケン現象はMie散乱の起こる程度の霧に現われる。 |
(4)稀に、球でない小さな氷晶の雲にも現れるよう だ |
粒子が球でなくてもMie散乱は起こる。 |
(5)中心点に反射がある |
Mie散乱は真後ろにも輝点がある。 |
(6)何重もの輪が見える |
干渉を含んでいるので、強め合う条件はいくつもあ る。 |
(7)内側が青、外側が赤 |
直感的には波長が短い青の方が干渉縞の間隔が狭いた め。 下図参照。 |
計
算結果 |
レー
ザー前方散乱実験 |
粒子半径8μm |
ガラスの曇りが濃い場合 |
粒子半径5μm |
曇りが薄い場合 輪が大きい |
計算式 ここで、iは複素単位、rは散乱体半径、λは波長、θは散乱角度、Lとφは積分する際の半径と円周上の角度です。 expの中身が散乱光の位相です。 L dφ dL は積分時の面積素。積分結果の絶対値をグラフにしました。 この計算ではsinc関数という真正面が最大になる結果しか得られない単純すぎるモデルです。 そこで、モデルを変えて半球面で計算すると周辺の縞が弱すぎ、逆に表面の反射1点と焦点からの反射1点で計算すると縞 が強 すぎました。 この計算は偶然似たような結果になっただけで、近似としてはかなり荒いと思われます。 ミー散乱の計算は大変複雑です。 |
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ブロッケン現象の計算 私の計算モデルを改善し、何枚もの円盤で球を表現してみましたがうまくいきません。 共通なのは、霧の粒子の大きさが大きいほど輪の大きさは小さく密になっていく事です。 以下のサイトを参考に計算し、霧を重ね合わせて実際に見たものに近づけました。 http://www.adcom-media.co.jp/ |
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